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動物をめぐる形而上学的思考の行方@立正大学

掲題のイベントに参加したので、備忘がてら感想を記しておく。以下、各登壇者の発表についての所感。

 

斎藤さん

 

  • 標題では「ハイデガーデリダ」と銘打たれているものの、ハンドアウトの7割程度はハイデガーにおける諸概念(例えば「退屈さ」「ピュシス」)の分析に割かれており、実質的にはハイデガーにおける動物論といえる
  • ハンドアウトの記述内容は重厚であり、ハイデガー哲学の重要概念が濃厚に詰め込まれてはいるが、皮肉にも、そのために議論の流れがいまいち整理しづらくなっている印象を受けた。発表者のスタイルなのだろうが、論述の中にあまり問いも立てられておらず、僕のような非ハイデガー専門家には少しわかりにくかった(特に pp. 7-8あたり)
  • 西山さんも指摘していたが、不用意な(大胆?)概念の並置(例えば「哲学知」と「観想知」)が気になった)
  • この哲学的な分析を通して結果的にピュシスの隠蔽性が現れる以前の世界へ退行しようとする(あるいは、その遡及的な運動を是とする)のは、本「哲学的分析」自体の否定ではないのか。であれば、この論述自体が単なる非現実的なニヒリズムとして解釈されかねないのではないか(と思った)

 

宮崎さん

 

  • こちらも発表者の出自が色濃く反映されており、実質的にはデリダによるハイデガー読解の読解。斉藤さんとはスタイルがだいぶ異なっており、個々の概念の分析よりは全体の議論の流れを重視しているという印象。個人的にはこちらのほうが理解しやすかった。「痕跡」の分析により人間・動物の二項対立を無化するという、典型的な脱構築論法で整理されていたことが理由だろう
  • デリディアンによる見本のような読解であったという印象を持った。ただ、結語部分の「夢」ではやや言葉を濁しており、もう少し展開が必要なのではと思った
  • ハンドアウトのレイアウトが非常に整っていたのが印象的だった。Indesignを使っているのだろうか?

 

西山さん

 

  • ハンドアウトが引用のみだったのが残念(家に帰って読み返したときに、ほとんど議論を整理できなかった)
  • 棺の議論など、興味深い論点をいくつも話していたのだが、デリバリにやや難があったために(僕の印象)、うまく理解できなかった。もう少しゆっくりと、言葉を絞って話してほしかったと思う。話の内容自体は興味深いものだっただけに若干残念だった

 

川口さん

 

  • 西山さんとは対照的に、ハンドアウトが非常につくりこまれており、30分で扱うにはどう見ても無理な量だった。もう少し内容を絞ったほうがよかったのではないかと思った
  • 個人的に神―人間―動物の論点はもっと展開してほしかった

 

なお、時間の関係で質疑応答には参加できなかった。

 

 

全体について

 

  • 久しぶり(たぶん10年ぶりくらい)の哲学系シンポジウムだったが、思いのほか楽しめた。たぶん僕は哲学がけっこう好きなのだろう
  • 会場はほぼ満席だった。人々の間に現代思想への関心がまだ残っているということに感慨を覚えた
  • ハンドアウトの不足により、時間が大幅に押していた。明らかな運営の不備と思われるため、改善を期待したい
  • 20世紀の哲学ばかりが扱われていたので、今度はぜひ18世紀の観点での動物論が聞きたいなあと思った(ところで昨今ののディドロ・ブームはこの動物論に後押しされたものなのだろうか。よくわからん)
  • やはり重要概念については、ハンドアウトではなく、パワーポイント等を使って、理解しやすくする工夫が必要だと思った。これは僕が普段スライドばかり作っているせいかもしれない

 

 

☆☆☆

 

 

4人の発表を聞いてから外に出ると、なにかの寓意のように、雨上がりの空に虹がかかっていた。水たまりをよけながら、家までの坂道をゆっくりと歩く。残念ながら、僕は二足歩行には戻れそうもないな、と思った。でも営利企業では理性を十分に行使することもできない。じゃあ僕は何なのだろう――たぶん「中身のない人間」かなにかだろうなと思った。でも選挙権はあるんだぜ、ともう一人の自分に逃げ腰で反論しつつ、そのまま僕は投票所に向かった。