卒業

シンガポールのランドマーク、例の船が上に乗っているホテルでの卒業式。人生初めてのアカデミック・ガウンはぶかぶかで、オバケになったような気さえした。学位が得られたことによる安堵感と、これから始まる新しい日々への期待からだろう、同級生たちは皆一様に晴れやかな顔をしていた。僕は僕で、なんとか平均を上回る成績で修了することもできたし、なんとか卒業式に家族を連れてくることもできたので、ほっと一息ついているところである。ちなみに、夜でのディナーの際、僕は「コメディアン大賞」(要するに、面白かったで賞)を学校(+クラスの皆)から送られた。こういった賞が日本人に贈られるのはなかなかのレアケースではないかと思う。

 

正直、このプログラムにアプライしたとき、僕の期待はさほど高いものではなかった。いや、このプログラムに対してというよりは、MBAというのものに対してどこかいぶかしさを感じていたというほうがより正確かもしれない。そして、MBAを、それもいわゆるトップスクールの一角のプログラムを修了した今も、その気持ちの半分は消えていない。アカデミックという一点に限って言えば、さほど高いレベルは求められないし、おそらくここで学んだハードスキルについては、実務で使い続けない限り、早晩忘れてしまうだろうからだ。それでも僕は、本当にMBAを取ってよかったなと心から感じている。理由は主に以下の三点である。

 

1. 友人関係が広がった。

これまで英語を介して作ってきた友人関係には、どことなく他人行儀な面があったような気がする一方で、今回のプログラムでできた友人は、同じ苦しみを共有してきたということもあり、本当に近しい関係となった。彼ら・彼女らはこれからも僕を訪ねて日本に来るだろうし、僕も彼らに会いにいずれ世界中の都市を訪れるだろう。これは本当に一生ものの財産である。

 

2. 経営がずっと近しいものになった

一年間ずっと様々なケースを読んでいたからだと思うのだが、いろいろな会社の「経営ごと」を、少なくとも以前の自分よりはずっと近しいものとしてとらえることができるようになった。同じ事象を扱う際でも、これまでは僕の視点はどちらかといえば財務に偏っていたが、この一年を通して、戦略、マーケティング、オペレーション、人事など、様々な側面からものごとをとらえられるようになった(と思う)。

 

3.願っていたポジションに転職できた。

これはすでに4か月前の話だけれども、狙っていた会社の、狙っていたポジションに転職できた。Hiring managerからは明確に、「トップスクールのMBA(候補)であることが、選考上の強力なアドバンテージだった」と入社後に言われた。ポジションも、給与の上昇幅も、この学位なしでは不可能なものだったと思う。

 

最後にもう一点付け加えるとすれば、英語の読み書きのスピードや質も、多少は上がったのではないかと思う。スピーキングについても、多少はマシなレベルになってきている…といいのだが。とはいえ、英語力については、ネイティヴとの圧倒的な差を見せつけられることのほうがむしろ多かったので、やはりこれからも継続的に鍛えていかなければならないなと思う。

 

ともあれ、明日からはまた新しい日常が始まる。大量のメール処理、職場へのお礼、これからすることの整理、日本でのソーシャライズ再開と、これからまた慌ただしい日々となりそうである。羽田まであと2時間、この2時間だけは自分に少し休息を与えることにしよう。まだ見ぬ新しい日々の景色が、素晴らしいものになることを願いつつ。