オレンジの魔法

相変わらず引きこもっているのだが、ワークロードは一向に減らない。何が悲しくて自宅で2時まで働かなくてはいかんのだと毎日思ってはいるのだが、如何ともし難い。「テレワークで過労死」とか、どっかの新聞の見出しでありそうだけど、本当に笑えない状況である。おまけに15時を過ぎると、自宅の上のほうを飛行機がビュンビュン飛んでいて大変にうるさいのがけっこうなストレスになっている。良くも悪くも、僕は政治が決定したことに文句を言うことは少ないほうだと思うのだが、これは本当になんとかしてくれよと思ってしまう。スキャンダルやら袖の下やらはどうでもいいから、まずは飛行機をなんとかしてくれ、と。

 

そんな中、日常で唯一の癒しとなっているのが街を歩くことである。いま少し時間がとれるのは、子どもたちが寝室に行ったあと、夜勤を始めるまでの21:30~23:00の間くらいなので、だいたいその時間を利用して自宅の周りをウロウロと歩いている。そう書いてしまうとなんというか犯罪予備軍か変質者みたいなのだが、当人としては人畜無害にただ歩いているだけなので、文句を言われても困ってしまう。昨日は24時前のほとんど誰もいない戸越銀座商店街をゆっくりと歩いてきたのだけれど、寝静まった商店街全体が街灯のオレンジ一色に染まっていて、まるでどこにもない幻の街のようだった。自宅からほど近い距離なのに、ずっと遠くの国にまで旅行にきたような、そんな気がした。昔、アーメルスフォールトの夜の旧市街を歩いたときも同じように感じたことを思い出す。オレンジという色が織りなす魔法なのかもしれない。

 

「新しい生活様式」…おそらく20年後の教科書か資料集に太字で載るであろう、この耳慣れない言葉は、僕の生活をも確実に侵食しつつある。おそらく、突然のパラダイムシフトにいささかの戸惑いを覚えているのは、僕だけではないだろう。小野田寛郎はそれを受け入れることなく、地球の裏側に移住することを選んだ。僕はこの先3年で、どのような決断を下すのだろう。