季節は過ぎていくのに

「退職したい」ということを告げたとき、上司の顔色は今まで見たことのないものに変わった。その後、約1時間の慰留。ここ2週間で一番辛い時間だった。すでに次に行くことを完全に決めていた状態だとはいえ、人の期待を裏切ることは生来好むところではないし、曲がりなりにも3年半という時間をこの組織で過ごしてきたからである。それでも、僕はこの決断を悔やむことはないだろし、おそらく5年後、10年後の僕は、この転職を人生のターニング・ポイントとして述懐するだろう。36年という年月の中でわかったことだが、そうした種の直感や感覚は、だいたい正しい。ちなみに、僕がこれから組織の働く会社の社訓には、「(概ね)正しい判断を」、「先入観を持って」、早く行え、というものがあるが、僕のこのキャリアチェンジは、この社訓を正しく実行したものとも解釈できるかもしれない。

 

☆☆☆

 

秒速5センチメートル』のダメージは予想していたよりもずいぶんと重く、毎日深夜にyoutubeで予告編を見直し続けているという軽い中毒症状になっている。考えてみれば、『国境の南、太陽の西』を村上春樹の長中篇最高傑作と考えている僕に、同じようなプロットであるこの小品が刺さらないはずがないのである。正直、この作品についてであれば、僕は独白を2万字分くらい続けられる自信があるが、それはどこまで行っても、過去を「オカズ」にした僕のマスターベーションになってしまうだろう。ともあれ、新海誠くらい男心を精緻に描ける人は、今の日本でアーティストと呼ばれる人たちの中でも数えるくらいしかいないのではないかという気がする。「その瞬間、永遠とか、心とか、魂とかいうものがどこにあるのか分かった気がした。13年間生きてきたことすべてを分かち合えたように僕は思い、それから次の瞬間、たまらなく悲しくなった」とかいうような、村上春樹臭と中二臭にあふれた台詞回しなんか、もう絶妙にツボで辛くなってくる。BGMはやはりブラームス

  

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娘2人を連れて「デザインあ展」を見に行く。日曜ということもあって、入場まで一時間半待ちと大入りであった。客層は幅広く老若男女が入り乱れており、天下の公営放送のブランド力を改めて見せつけられる。テレビで放映されているのも毎回凝った内容だが、展示もそれに負けず劣らず練られたもので、久しぶりに自分の中の感性が刺激されているのを感じた。特に印象的だったのは、最後のほうに展示されていた一週間の日常が繰り返される映像である。描かれている男は5日間オフィスでデスクワークをして、2日間海辺でリラックスするという日常をひたすらに繰り返すのだが、それを見ていたらなんとも暗澹たる気持ちになった。娘からは「これはパパの人生だね」とのコメント。小学生に容赦の二文字はない。

 

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来週はまたシンガポールなので、そのための準備でまたバタバタとしそうである。そういえば、今年は花火と呼ばれるものを一度も見ていない。