Go Go 目黒

久しぶりの一人の夜である。別にめくるめくような出来事があるわけではないのだが、ビートルズを聴きながらのんびりと部屋の掃除をし、夕暮れの街をゆっくりと走るだけで、心の中のパズルが少しずつ整理されていくような気がする。夕食後に少し時間がとれたので、ずっと見たかった『秒速5センチメートル』を見て、予定どおりにダメージを受ける(『時をかける少女』のときよりは幾分マシだった)。36になっても、どうやら僕は全力で青春を引きずっているようである。言えなかった言葉、風に乗って香ってくる髪の匂い、永遠を願った夏の午後…そういったいくつかの要素は、まだ決して消化されないままに、遠い日の記憶として心の深いところに沈殿し続けている。

 

☆☆☆

 

面接を受けていた会社のリクルータから先週の火曜日に連絡があり、正式に内定とのこと。オファーレターへのサインはこれからになるが、近いうちの転職が99.9%決定している状況である。僕にとっては願ってもなかったポジションでの採用であり、いわゆる”dream job”が急に目の前に転がりこんできたような状況と言えるかもしれない。世界で一番成長している会社の、最も成長著しい事業の戦略ポジションなど、世の中にあまた仕事があるとはいえ、そうそうマーケットに出てくるものではないからである。「ビジネスをドライブする」という点では、これほど面白いポジションもそうそうないだろう。もちろんプレッシャーは大きいだろうが、それを力に変えていけるように、日々の努力を怠らないようにしたい。かくして物語の舞台は品川から目黒に移る――電車で10分ほどの距離ではあるのだが。

 

☆☆☆

 

ひょんなことから、学部時代の同級生がコアなフェミニスト活動家(?)になっていたことを知る。そんなに話したこともなかった――というか、19歳くらいの頃のその彼女はとにかく綺麗で、おいそれとは話しかけられないような雰囲気さえあった。その彼女が、どういう経緯をたどって、活動家としての人生を歩むようになったのかはよくわからない。不思議なのは、彼女ほどの美貌の持ち主であれば、その人といることで自然と誇らしくなってしまうような、そんな男性と平凡な幸せを築くことは難しくなかったのではないか、という点だ。もちろん、彼女には彼女しかわからない事情があるだろうし、そんな幸せなど社会的な押しつけに過ぎないと言えば確かにそうなのだが…。少なくとも、15年ぶりという年月を経て見た彼女の顔からは、世間に流通している幸せのイメージはあまり伝わってこなかった。

 

それにしても、ちょっとインターネットを覗くと、最近フェミニズムに関する議論が喧しく、若干辟易しているところである。もちろん女性の権利は保障されるべきだと思うし、先日明らかになった東京医科大の件は社会的に許されるものではないとも思うが、「差別だ、権利を!」と声高に主張する朝日新聞やハフポストの記事をまとめて読んだりすると、じゃあ僕はどうすりゃいいんだよ、と思ってしまうのも偽らざる感覚である。もちろん女性のキャリアや働くことの難しさは依然残っているけれども、同年代の夫婦を見る限り、父親も育児に大いに関わっているし、家事も相当程度折半しているケースが多いので、フェミニストが糾弾するところの男性像というのも、だいぶバイアスがかっているような気がするが…。とはいえ、このあたりは個々人の置かれている環境に相当依存するだろうから、安易な一般化は禁物だろう。いずれにせよ、男性と女性との間には、深く暗い溝が依然として横たわっている。