津軽・南部

夏休みを利用し、青森に向かう。歳のせいなのか、妻子持ちという境遇ゆえなのか、休暇といえど自宅にいると結局細かいタスクに追われてしまうので、日常から離れるには旅行という要素がどうしても必要になるのである。というわけで、①これまで訪れたことのない場所、②なかなか行けない場所、③観たいものがある場所、という3つのクライテリアを満たした場所として、家庭内での厳正な審査を経て、今年の行く先は青森に決まった。

 

夕方仕事を終え、はやぶさで当地に向かう。お盆前ということもあり、新幹線は満席であった。疲れが残っていたためだろう、車内では辞書をせっせと引きながらフランス語の小説を読んでいただのだが、あまり話の筋が頭に入ってこなかった。21時に前に新青森に着くと、当然ながらあたりは真っ暗であった。首都圏の夜とは闇の深さが違う。

 

翌朝はお目当ての「のっけ丼」を食べに駅近くの魚菜センターを訪れる。朝から生魚というのは祝祭性があってなかなかよいなと思った一方で、ビタミンや繊維質に乏しいのは如何ともしがたいものがある。というわけで、ご当地の100%りんごジュースでしかるべき栄養を補給し、お腹がふくれたところで三内丸山遺跡へと向かう。ここは青森観光の目玉として個人的にとても期待値が高かったのだが、気温が35℃を超えている中での遺跡見学というのは相当に厳しく、生きるのに精一杯という感じで、展示されているものにあまり注意が向けられなかった(たぶんシュリーマンだって同じ環境だったらそうなったはずだ)。ここでは、埴輪がプリントされたサイケなシャツを自分用のお土産として購入した。夕方、十和田湖畔のホテルに移動。

 

翌朝、ボートでの湖散策のツアーに参加する。軍用ボートを利用して十和田湖畔の名所を一気に回るというものだが、これは今回の旅の中でも当たりであったと思う。担当してくれたスタッフの方は「これはボッタクリですから」とやや自嘲気味に冗談を飛ばしていたけれども、時間のない観光客にとってはROIの高い投資ではないかという気がする。その後、十和田神社と「乙女の像」を観て、この旅一番の目的であった「キリストの墓」に向かう。

 

この「キリストの墓」は新郷村という、お世辞にも栄えているとは言い難い村落に位置している。地図で見ると十和田湖からの距離は20kmくらいに見えるのだが、当地まではそれなり山道ということもあり、当初の予定よりずいぶんと時間がかかってしまった。思えば、中学生の頃に『ムー』と『MMR』でこの存在を知ってから、25年以上にわたって「いつかは」と思ってきただけに、ここを訪れるにあたっては、感無量とは言わないまでも、なにかしら感慨のようなものを感じずにはいられなかった。

 

件の「キリストの墓」に着く。墓(と思しきもの)にはワンカップ大関が供えられており、奇妙な和洋折衷のコントラストが場所の特異性を浮き彫りにしていた。資料館に入ると、『ムー』のバックナンバーが所狭しと並べられており、その向かいには竹内文書のあらましが記載されていた。まあなんというか、トンデモの役満みたいな場所ではあるのだが、自治体がそのトンデモ性を否定することなく、この場所に対して一定のコミットメントを見せているところに、なんとも言えないすごみのようなものを感じてしまう。ある意味では、嘘を嘘として楽しめる大人でないと、決してこれは成立しないのではないか――。資料館の前で「ナニャドヤラ」を聴きながら、僕は『ブルーピリオド』に出てくる、「ラッピングはこの世で一番可愛い嘘ですから」という台詞を思い出していた。

 

旅の主目的を果たした後、弘前へと向かう。2時間ほどの行程。当地に着いた後は、夕暮れに染まる弘前公園をゆっくりと散歩する。おそらくは計画的に整備されたであろう、洋館の多い街並みは歩いているだけでも心が躍る。街の規模からすると、松江に幾分かの異国情緒を加えると弘前に近いものになるかもしれない。

 

翌朝、朝一から岩木山神社に向かう。ここは当地の一宮ということもあり、ぜひ足を運んでおきたかった場所である。伝説によると、この神社は「780年に創建後、坂上田村麻呂が800年に再建」ということだが、時の朝廷もよくもまあここまで勢力を伸ばしたものだなと思う。ここでは、手水舎からの水が勢いよく湧き出していたのがなによりも印象的であった。その後、弘前市内の忍者屋敷を見学し、アップルパイ付きのランチをとって帰路へ。弘前から黒石に向かう道沿いには、収穫前の稲穂が青々と実っており、空の青とのコントラストが目を楽しませてくれた。

 

☆☆☆

 

というわけでいま東京の自宅で、半ば自分用のトラベルログとして上記をまとめてみた。まあ今回は、なんといっても「キリストの墓」を訪れることができたのが大きかったと思う。足の裏の米粒だとはわかっていつつも、いつか訪れるべき場所と考えていたからだ。今度行くのであれば、紅葉の時期に白神山地を訪れてみたいと思う。なお残念ながら、滞在時間がさほど長くなかったこともあり、津軽と南部の文化的な違いについてはよくわからなかった。次回の課題としたい。