六月の温い雨に

本当は昨日書こうと思っていたのだけれど、疲れてしまって筆が進まなかったので、申し訳程度に最近あったことを簡単に記載しておこうと思う。

 

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フランス語の試験を受けに板橋に行く。我が家から電車で30分もかからない距離なのだが、普段あまり公共交通機関に乗らないこともあって、久しぶりにずいぶん遠くまで出かけたような気分になる。前にかの駅で降りたのはおそらく5年以上前だったと思う。

 

指定された会場に向かい、教室に入る。僕を驚かせたのは、何よりも受験者のdemographicであった。男性はほとんどが学生と思しき人々(なぜか社会人経験の有無はだいたい見ればすぐにわかる)、女性はそれにシニアな方々が加わった感じで、いわゆる働き盛りの男性は僕以外には見かけなかった――少なくとも僕の観測範囲では。これは、かの言語がすでに立身出世のためのそれとは社会的にみなされていないことを含意している(と思われる)。英語は例外としても、例えば中国語や韓国語だったら、受験者層の顔ぶれはもう少しバラエティに富んでいるのではないか。あくまで見たことはないので想像するしかないわけだが。

 

試験本番。一応解答用紙は全部埋めたのだが、出来がどの程度なのかさっぱりわからない。どうもボラティリティの高い試験のようだし、やれることはやったので、結果を待つのみである。

 

ちなみに、口頭試験は日を改めて行われた。「オーバーツーリズムの影響について」というお題について30分ほど話す。「なぜCO2を抑制する必要があるのかしら?」と試験管。「温暖化への影響を軽減するためだと思います」、と僕。たぶん人工知能のほうがよっぽどマトモな回答をするのだろう。こちらも出来は不明。それにしても、飯田橋に来るとどうもノスタルジックになってしまってよくない。坂の町にそぼ降る雨は、沈殿していた僕のいくつかの記憶たちを鮮やかに浮かび上がらせていた。喚起される鈍い痛み。記憶の中の彼女はいつまでも25のままだ。

 

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会社は人がけっこう変わってしまった(減ってしまった)ので、改めて決起集会ということでチームで焼肉を食べに行く。そそくさと帰ろうとしていたところ、「風呂行かへん?」と上司から申し出があったので、健全な組織人である僕は、黙って最寄りのスーパー銭湯についていく。「やっぱり飲みの後は風呂ですよね」というような感じで。この日一番ヒヤヒヤしたのは、入浴しようと全裸になり湯船に行こうとしたところ、間違えてフロントに出てしまったことであった。たぶん酔っぱらって判断力が鈍っていたからだと思うのだが、さすがにこんなところでなんとかチンレツ罪とかに問われたらシャレになったものではない。そんなわけで、肝を冷やしつつも、滞りなく入浴を済ませ、エビアンをちびちびと飲みながら家路に着いた。

 

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自宅の近くで上野千鶴子澤田直両氏の公演があったため、ぜひ見に行きたかったのだが、チャイルドケアで時間がとれず。よく言われる話ではあるのだが、資本制の渦の中で一定のfamily commitmentを抱えながら、いわゆる人文学のためにリソースを割くのはやはりなかなか困難である。それだけに贅沢であるとも言えるのだが。僕のDaseinは、おそらく高層ビルの底のあたりで静かに眠っている。